JCICコラム
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お盆休みに経済安保を身近に感じるお勧めの10冊
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JCIC代表理事 兼 上席研究員 梶浦敏範
2024年8月5日
国際的な緊張の高まりによって、環境・人権問題等に配慮しながらも、経済のパイを大きくすること、利潤を上げることに注力できた民間企業のスタンスに変化が生じている。直接戦火に襲われなくても、グレーゾーン事態を含めた経済安全保障への取り組みが、企業にも求められるようになってきた。しかし、有事やグレーゾーン事態、国家レベルの相手による機密情報窃取や事業継続への危機など、民間人には自分事として捉えるための知識や疑似体験はあまりない。そこで、セキュリティ人材の皆さんに役に立つ身近に感じられる本を10冊選んでみた。
1.「恐怖への旅」(Journey into Fear)
ハヤカワ・ポケミス141 エリック・アンブラー著
1940年発表、トルコへの軍事援助を担当した英国の技術者が、ナチの殺し屋に狙われる。諜報など全く知らない青年が、プロの追跡をどうかわすかのサスペンスが秀逸。
2.「寒い国から帰ってきたスパイ」(The Spy Who Came from the Cold)
早川書房 ジョン・ル・カレ著
1963年発表、リアルに虚々実々の諜報戦を描き、超人スパイものを凌駕したスリラー。現代エスピオナージの古典的作品で、最後のどんでん返しと悲劇が心に残る。
3.「不死鳥を倒せ」(The Berlin Memorandum)
ハヤカワ・ミステリ文庫 アダム・ホール(エルストン・トレヴァーの筆名)著
1965年発表、旧SS大将の陰謀を阻止する「地味なスパイ」が使う尾行・暗号技術。WWⅡ時代からのベテラン諜報員が因縁ある男を追及するため、生還を期せない作戦に加わる。
4.「ジャッカルの日」(The Day of the Jackal)
角川文庫 フレデリック・フォーサイス著
1971年発表、ド・ゴール暗殺を依頼された殺し屋<ジャッカル>が、独創的な行動で標的を狙う。証跡を消しながら変幻自在に姿を変えるプロを、フランス警察は阻止できるか?
5.「パンドラ抹殺文書」(The Deadly Document)
早川書房 マイケル・バー=ゾウハー著
1980年発表、CIAとKGBの暗闘を諜報経験のあるイスラエルの上院議員が描くスリラー。裏切りを疑われる組織の高官を巡る攻防で、表の目標と裏の目的が入り乱れる。
6.「ブラックアウト」(Blackout)
角川文庫 マルク・エルスベルグ著
2012年発表、電力インフラへのサイバー攻撃による広範な被害を描いたパニックもの。ハッカー同士の攻防も興味深いが、電力途絶による悲劇が生々しい圧倒的な1,000ページ。
7.「要秘匿」(Need to Know)
早川書房 カレン・クリーヴランド著
2018年発表、CIA分析官の女性の日常を描くスリラー。夫は敵国が送り込んだスパイで私を見張っているのでは?クリアランスを負って生きることをリアルに描いた作品。
8.「スマホを落としただけなのに~囚われの殺人鬼」
宝島社 志駕晃著
2018年発表、デジタルフォレンジック専門の若手刑事が殺人犯と対峙するミステリー。クラッキングの手口や社会混乱を引き起こすテロ行為などを、分かりやすく解説している。
9.「極東動乱」(Rules of Engagement)
早川書房 デイヴィッド・ブランズ J・R・オルソン著
2019年発表、潜水艦乗りと情報将校の共著によるサイバー軍事スリラー。日米中の軍事システムを乗っ取ったテロリストがWWⅢを起こそうとし、これに天才ハッカーが挑む。
10.「ウクライナ戦争はなぜ終わらないのか~デジタル時代の総力戦」
文春新書1404 防衛研究所防衛研究室長 高橋杉雄 編著
2023年発表、編者の他抑止論・宇宙戦・サイバー戦の専門家による現代戦争論。ウクライナで試された新戦略や戦術を分析し、新しい総力戦とは何かを論じている。
海上自衛隊では、特定秘密を扱う資格のない隊員を、秘密情報があるCICなどに入室させ作業させるのが常態化していたという。現場指揮官がこれを「秘密の漏洩」であると知らなかったというから、問題は根深い。秘密を扱うということはどういうことか、これらの書を読んで理解してほしいと思う。
以上