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JCICコラム

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[コラム]
「ハーバード大ベルファー・センターによる国別サイバー能力ランキングの正しい読み方」
2022年10月11日
JCIC事務局長 藤原未来子
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ランキングにはわかりやすいインパクトがあり、皆が飛びつく。特に日本は他者の評価を気にする国民性と言うこともあり、ランキングが大好きである。上がれば「もっと上を目指せ」となるし、下がれば「責任の所在は」となる。

サイバーセキュリティに関するランキングはいくつかの機関が行っているが、ハーバード大学公共政策大学院(ケネディ・スクール)のベルファー・センターも2020年に「ナショナル・サイバーパワー・インデックス」を初めて公表。先月、第2弾の2022年版ランキングを発表した (National Cyber Power Index 2022)。日本は2020年は9位に付けていたが、2022年のランキングではトップ10圏外となり、16位となった。残念なことである・・・が、本当にそうだろうか。よく見ると意外な国が入っている。北朝鮮とイランである。これは、なんのランキングなのだろうか。

順位 2020年 2021年
1位 米国 米国
2位 中国 中国
3位 英国 ロシア
4位 ロシア 英国
5位 オランダ オーストラリア
6位 フランス オランダ
7位 ドイツ 北朝鮮
8位 カナダ ベトナム
9位 日本 フランス
10位 オーストラリア イラン

公表されたこのランキングの前文として掲載された「読者の皆さまへ」という文章の中に、「本ランキングが提供する枠組みは、政策立案者が他国からの挑戦や脅威についてより広く検討できるようにするもの」であり、「政府は破壊的な攻撃やエスピオナージュ、あるいは自国のサイバー面でのレジリエンスの拡充を気にかけるだけでなく、他国の監視や情報統制、技術競争、金銭的動機、そして規範や標準化を通じて何が受け入れ可能かを形作る取り組みなども考慮すべき」だと記載されている。

つまりこのランキングは、「正しく清くがんばっている国ランキング」ではなく、「どんな手を使ってでも国家目標を達成しようとしている国ランキング」なのである。「米国」の大学が発表した、脅威を認識するためのランキングとも言えよう。

本ランキングは、8つの国家目標について、それを達成するための「能力」と「意思」という観点をかけあわせてサイバー能力を計測している。8つの国家目標とは、「国内集団の監視とモニタリング」、「国家のサイバー防衛力の拡充」、「情報の統制と操作」、「国家安全保障に関する海外インテリジェンスの収集」、「自国のサイバー・商業技術の競争力向上」、「敵対国家のインフラや能力の破壊・無力化」、「国際的なサイバー規範や技術標準の定義づけ」、「富の蓄積と暗号通貨の搾取」である。日本が苦手そうな目標、目指していない目標が複数入っている。この目標がベースだとすれば、日本が上位に行けないことは一瞬でわかるだろう。

本ランキングの説明にあるように、「今日の国家の活動と国力を理解するためには、サイバー能力というものが、国家がサイバースペースにおいて、あるいはサイバースペースを通じて達成しようとする8つの目標から構成されるものと概念化するのが有用である」、「サイバーの総合力がもっとも高い国とは、サイバー的手段を用いて複数の国家目標を追求しようとする意図と、それらの目標を追求し実現するための能力を備えている国家である」のであれば、相対的に日本のランキングが落ちるのは無理もない。

日本は「高い能力・低い意図」グループにカテゴライズされている。このグループには他にシンガポール、イスラエル、スイスがいる。良いグループではないか。

なお、個別にランキングが示される評価項目は「財務力(資金獲得力)」、「監視」、「インテリジェンス」、「商業」、「防衛」、「情報統制」、「破壊力」、「規範」である。ちなみに「財務力」では北朝鮮が断トツの1位であり、2位の中国、3位のベトナム、4位のイランを大きく引き離している(すべて強権国家である)。「監視」については、中国、ベトナム、イランで1位から3位を占め、その後に米国、サウジアラビア、エジプトと続く。日本は「商業」で6位、「規範」で11位となっている。これらの項目ではさらに順位を上げていきたい。

ランキングはとかく独り歩きするが、ベルファー・センターのこれに関して言えば、順位が上がった下がったと一喜一憂するのではなく、評価項目を自国のあるべき姿・進むべき姿と照らし合わせ、その道筋に合致する項目での評価を上げていくことにこそ、意味があると言えるだろう。

以 上